「寝違えた・・・。」と首や肩が痛くなることは誰にでもあることですが、腕や手にしびれまで出てしまっている人は要注意です。
だたの寝違えと思って、安易にもみほぐしたり、無理に動かしてしまうと症状が悪化し治りにくくなってしまう可能性があります。
腕や手のしびれにまつわる病気はたくさんありますが、症状が悪化するとしびれや痛みが強くなり日常生活や仕事に支障が出てしまうことがあります。
今回の記事では、寝違えによる腕や手のしびれの原因の見極め方から、とるべき対処法について理学療法士が解説していきます。
※先につらいしびれの対処法が知りたい方は『寝違えてから腕や手のしびれが出る時の対処法』を覗いてみましょう!
目次
寝違えて腕や手にしびれが出る場合の症状と原因

夜寝ている時に、何らかの要因で首の筋肉や神経に問題が生じることで、起床後まで首に痛みが生じることを「寝違え」といいます。
その主な原因は、寝ているときに首が不自然な方向へ向いてしまうことによって筋肉を痛めてしまったり、神経が圧迫されてしまうことです。
▼原因と病態
何が起こって痛みが出ているかについては、いろいろな意見がありますが検査や画像でとらえられるような変化がないのが一般的なので、正確な原因であるという証拠はありません。睡眠中不自然な姿勢が続いたために一部の筋肉が阻血(血液の供給が不足)におちいり時にしこりとなっている、前日などにいつもはしないスポーツや労働をして一部の筋肉が痙攣している(こむら返り)、頸椎の後ろの関節(椎間関節)の袋(関節包)に炎症がおこる、などの原因が考えられています。筋肉の阻血・疲労や関節包の炎症を引き起こすのは、上肢の使い過ぎ(手で重いものを持つ動作は頸の後ろの筋肉に負担がでます)、同じ姿勢の持続(飲酒後の睡眠や疲れ果てての睡眠などでは寝返りが少なくなる・パソコンや事務作業が長時間に及ぶと頭を一定位置に保持するために頸部の筋肉に負担が生じる)、が原因の場合が多いと思われます。いずれにしても、「外傷(けが)」ではなく、軽い病気です。
■参照元:公益社団法人 日本整形外科学会
肩や腕にしびれが生じるのは、神経がなんらかの原因で圧迫されたときに多くみられます。
寝違えてしまってから首の痛みだけでなく、肩や腕にしびれが生じてしまう時は、似たような症状が起こる他の病気との判別が必要です。
ただの「寝違え」であれば、数時間から数日後は痛みやしびれが徐々に回復してきます。
しかし、しびれが徐々に強くなる場合や、手足の感覚が鈍くなるなどという場合には以下の様な病気が隠れているかもしれません。
詳しい検査は病院でのX線写真や検査器具を使用した感覚の検査などで行いますが、自分の症状を以下の病気の特徴と照らし合わせてみることで予測がつきやすくなります。
- 胸郭出口症候群
- 頚椎症性神経根症
- 頚椎椎間板ヘルニア
- その他の場所で神経が圧迫されてしまっている
胸郭出口症候群
胸郭出口症候群とは、首から出て肩〜手に繋がる神経が、首や肩周りの筋肉やその他の組織によって圧迫され痛みやしびれなどの症状を伴う病気です。
寝ている間の首や肩の位置が悪いと、首の横にある斜角筋という筋肉の間を通る神経や血管が圧迫されてしまいます。
これにより、胸郭出口症候群と似たような肩から肩甲骨周囲までに及ぶ痛み、腕のしびれなどが生じてしまいます。
▼原因と病態
上肢やその付け根の肩甲帯の運動や感覚を支配する腕神経叢(通常脊髄から出て来る第5頚神経から第8頚神経と第1胸神経から形成される)と鎖骨下動脈は、①前斜角筋と中斜角筋の間、②鎖骨と第1肋骨の間の肋鎖間隙、③小胸筋の肩甲骨烏口突起停止部の後方を走行しますが、それぞれの部位で絞めつけられたり、圧迫されたりする可能性があります。
その絞扼(こうやく)部位によって、斜角筋症候群、肋鎖症候群、小胸筋症候群(過外転症候群)と呼ばれますが、総称して胸郭出口症候群と言います。胸郭出口症候群は神経障害と血流障害に基づく上肢痛、上肢のしびれ、頚肩腕痛(けいけんわんつう)を生じる疾患の一つです。
頚肋(けいろく)は原因の一つです。
▼症状
つり革につかまる時や、物干しの時のように腕を挙げる動作で上肢のしびれや肩や腕、肩甲骨周囲の痛みが生じます。また、前腕尺側と手の小指側に沿ってうずくような、ときには刺すような痛みと、しびれ感、ビリビリ感などの感覚障害に加え、手の握力低下と細かい動作がしにくいなどの運動麻痺の症状があります。
手指の運動障害や握力低下のある例では、手内筋の萎縮(いしゅく)により手の甲の骨の間がへこみ、手のひらの小指側のもりあがり(小指球筋)がやせてきます。鎖骨下動脈が圧迫されると、上肢の血行が悪くなって腕は白っぽくなり、痛みが生じます。鎖骨下静脈が圧迫されると、手・腕は静脈血のもどりが悪くなり青紫色になります。
■参照元:公益社団法人 日本整形外科学会
胸郭出口症候群の治療法は、症状が軽い場合は保存療法としてリハビリや消炎鎮痛剤、血流改善剤やビタミンB1などの投与が行われます。
骨の異常が原因となっている場合などは、手術が適応される場合もあります。
頚椎症性神経根症
首の骨は7つの小さな骨が積み重なって形成されています。
その骨の内側にある脊柱管という神経の通るトンネルを、脳につながる神経の束である脊髄(頸髄)が通っています。
腕や手指につながる神経は、その頸髄から枝分かれをし、頚椎の骨と骨の間を通っていきます。
頚椎が何らかの原因で変形してしまう病気を「頚椎症」と言いますが、この病気により神経が圧迫されると痺れや痛みが生じてしまいます。
神経が枝分かれした部分(神経根)で圧迫されて痛みやしびれなどの症状が生じる病気のことを「頚椎症性神経根症」といいます。
▼症状
中年~高齢の人で肩~腕の痛みが生じます。腕や手指のシビレが出ることも多く、痛みは軽いものから耐えられないような痛みまで程度はそれぞれです。
一般に頚椎を後ろへそらせると痛みが強くなりますので、上方を見ることや、うがいをすることが不自由になります。上肢の筋力低下や感覚の障害が生じることも少なくありません。
▼原因と病態
加齢変化による頚椎症(椎間板の膨隆・骨のとげの形成)の変化によって、脊髄からわかれて上肢へゆく「神経根」が圧迫されたり刺激されたりして起こります。
遠近両用眼鏡でパソコンの画面などを頚をそらせて見ていることも原因となることがあります。■参照元:公益社団法人 日本整形外科学会
頚椎症性神経根症の治療法は、症状が軽い場合は消炎鎮痛剤などを併用しリハビリや頚椎牽引を行います。
生活に支障が出るほど症状が強い場合などは、手術が適応されることもあります。
寝ている間に、首がおかしな方向に曲がってしまったり、一部分に負担が掛かってしまうと一時的に首や肩周りの筋肉が凝り固まってしまいます。
これにより、頚椎部分で神経が圧迫されてしまい、一時的に頸椎症性神経根症のような症状が出やすくなってしまうことがあります。
頚椎椎間板ヘルニア
首の骨(頚椎)の間には、クッションのような役割をする椎間板があります。
この椎間板が加齢による関節の変性や、不良姿勢での仕事で無理な力が掛かると後方へ飛び出してしまいます。
飛び出した椎間板が神経を圧迫してしまうことで、痛みやしびれなどの神経症状が出てしまう病気を「頚椎椎間板ヘルニア」といいます。
▼症状
首や肩、腕に痛みやしびれが出たり(神経根の障害)、箸が使いにくくなったり、ボタンがかけづらくなったりします。
また、足のもつれ、歩行障害が出ることもあります(脊髄の障害)。▼原因と病態
背骨をつなぐクッションの役割をしている椎間板が主に加齢変化により後方に飛び出すことによって起こります。30~50歳代に多く、しばしば誘因なく発症します。
悪い姿勢での仕事やスポーツなどが誘因になることもあります。飛び出す場所により、神経根の圧迫、脊髄の圧迫あるいは両者の圧迫が生じます。
■参照元:公益社団法人 日本整形外科学会
頚椎椎間板ヘルニアの症状の特徴としては、首を後ろや斜め後方に反らすと、しびれや痛みなどの症状が強くなるといったものがあります。
詳しい検査は病院でのMRIで神経の状態を確認することや、検査器具を使った感覚の検査で行いますが、上記の様な特徴が見られる場合は注意が必要です。
軽症の場合は、首に装具を着けて安静にし、症状に応じて内服やブロック注射をおこないますが、重症例では手術が適応となります。
ひどくなると、腕のしびれにとどまらず、歩くことが困難になったり、排尿障害を伴ってしまうこともあります。
「寝違え」によって筋肉が一時的に凝り固まってしまうことで、過去にヘルニアと診断されたことがある人は似た様な症状がでやすくなっている場合があります。
数日経っても症状が良くならない、しびれが日増しに強くなる場合などは早めに受診が必要です。
その他の場所で神経が圧迫されている
正常な人でも、正座を長時間していると、徐々に足のしびれを感じます。
このように、長時間ある一定の部分に圧が掛かってしまうと、その部分の筋肉が硬くなって血流が悪くなったり、神経が圧迫されてしびれを生じることがあります。
腕や手の場合も同様に、朝起きたときに体の下敷きになっている部分にしびれが生じることがあります。
他に上記に述べた疾患以外でも、寝ている姿勢によって首や胸、腕周りの筋肉に負担が掛かり血流が悪くなってしまうと、腕や手にしびれが出る事もあります。
寝違えてから腕や手のしびれが出る場合のNG行動

寝違えによるしびれが生じた時にやってはいけないことは以下の2つです。
- 無理に動かす
- 自己流のストレッチ・マッサージ
首やしびれが出ている部分を無理に動かしたり、マッサージをしたりしてしまうと返って症状が悪化してしまうことがあります。
先につらいしびれの対処法が知りたい方は『寝違えて腕や手のしびれが出る場合の対処法』を覗いてみましょう!
無理に動かす
寝違えによる痛みやしびれは、そのほとんどが筋肉やその周辺組織に問題が生じてします。
一時的な血行不良であれば、動かすことで症状が和らぐ場合もありますが、炎症が起きてしまっている場合には安静が第一優先です。
炎症が起きてしまっている場合に、症状が出ている部分を無理に動かしてしまうと炎症を助長してしまうことになります。
このような危険もあるので基本的には、痛みやしびれが出ている間は無理に動かさずに安静にしておきましょう。
自己流のストレッチ・マッサージ
今ではインターネットで調べると、さまざまなストレッチやマッサージ法が紹介されています。
また、近年の健康ブームによって、さまざまな健康器具が流通しています。
しかし、寝違えによって生じた痛みやしびれに対しては無理なストレッチやマッサージが逆効果となってしまうことも少なくありません。
先ほど述べたように、症状が炎症によるものであれば、自己流でストレッチやマッサージを行うと返って炎症を悪化させてしまうことがあります。
ストレッチやマッサージを行う場合は、医療機関を受診し炎症症状が落ち着いたことを確認してから行うか、専門家の指示に従って行うことが大切です。
寝違えてから腕や手のしびれが出る場合の対処法

寝違えてから腕や手のしびれが出てしまった時にやるべきことは以下の3つです。
- 安静にする
- 痛み止めを服用する
- 医療機関や整体師の指示に従う
正しい対処法をとる事で、通常は数時間〜長くても2.3日で痛みやしびれが治ることが多いです。
※それ以上経っても痛みが治らない場合や、肩や腕にしびれや感覚の鈍さなどが見られる場合は、他の病気を患ってしまっている可能性もあるので早めに受診することが必要です。
起床時に痛くなり、数時間から数日で痛みが改善していくようなら、徐々に首を動かしていくことで治っていくのが一般的です。痛みが強い場合には整形外科を受診して、他の病気の可能性がないかを調べてもらいます。例えば、手足のしびれはないか、手足の動きは正常か、深部反射(ハンマーで手足を叩いて反応を見ます)は正常か、X線写真で骨が溶けたりしていないか、などを診察します。「寝違え」の場合には、首の動きは制限されていますが、上記の診察や検査では変化は認めません。痛みが治らず診察で異常がある場合には、
頚椎椎間板ヘルニア、頚椎症性神経根症、頚椎症性脊髄症、転移性脊椎腫瘍、脊髄腫瘍、強直性脊椎炎、関節リウマチなどの本格的な病気の可能性もありますし、肩こりの症状が強いだけの場合もあります。要は、寝違えが治らない場合には、整形外科を受診して調べてもらう必要があるということです。■参照元:公益社団法人 日本整形外科学会
まずは安静にする
痛みやしびれが生じている間は、無理に動かさずに安静にすることが優先です。
寝違えによる筋肉の凝りや硬さが原因の場合は、数日で症状が改善してきます。
仕事や予定をずらせる場合は、一日ゆっくりと休養を取り体を休めましょう。
痛み止めを飲む
痛みやしびれを我慢してしまうと、余計に筋肉が緊張状態となり治りが遅くなってしまう場合もあります。
痛みやしびれがつらい時や、どうしても仕事が休めない場合は痛み止めを飲むのも効果的です。
病院で処方された湿布、消炎鎮痛剤や筋弛緩薬などの併用も痛みやしびれを緩和させてくれる効果があります。
痛み止めを飲んだから大丈夫と無理して動いてしまうのは逆効果です。
薬によって症状が抑えられているだけなのでしっかりと症状が改善するまでは、安静を優先に対処していきましょう。
医師や整体師の指示に従う
インターネットで得た情報などで自己流に対処してしまう人も多いですが、中には間違った対処法をとってしまい症状が悪化してしまうことも少なくありません。
根本的な治療を望む人や早期に症状の改善を望む人は、医師や整体師の先生に相談し指示を仰ぎましょう。
寝違えは治っても腕や手のしびれが残る場合の対処法

寝違えによる首の痛みや動かしにくさが治っても、なかなか腕や手のしびれが残ってしまう人も少なくありません。
筋肉の硬さなどが改善されていない場合は神経を圧迫してしまう原因となり、なかなかしびれがとれない場合もあります。
その場合は、以下で紹介するストレッチやマッサージを参考に、首や肩周りをしっかりとほぐしていきましょう。
※しびれや痛みが強くなる場合や改善しない場合は早めに受診することも大切です。
ストレッチ
寝違えによる筋肉の硬さは主に首の前側・後ろ側の筋肉に見られます。
首まわりの筋肉のストレッチを行いしっかりと伸ばすことは、痛みやしびれを軽減させるのに効果的です。
痛みやしびれが軽減してきたら、無理のない範囲で行ってみましょう。
首周りのストレッチ①
首の後ろ側を伸ばすストレッチです。
枕の高さが合っていなかったりする場合にも硬くなりやすいです。
しっかりと呼吸に合わせて伸ばしていきましょう。
- 背筋を伸ばした状態で両手を頭の後ろで組む
- そのまま下を向き、両手の肘を近づける
- 息を吐きながら、手の重さで首の後ろをゆっくりと伸ばす
- 20秒キープを3〜4セット
首周りのストレッチ②
首の横の筋肉を伸ばすストレッチです。
首がおかしな方向に曲がってしまったときなどに硬くなりやすいです。
肩の力を抜いて、頭の重さだけで首筋を伸ばすように意識して行いましょう。
- 首を左右にそれぞれゆっくりと倒す
- 顔を左右の肩の方にそれぞれゆっくりと向ける
20秒キープを3〜4セット
マッサージ
マッサージでは、ストレッチでほぐしにくい部分を中心に優しくほぐしていきます。
寝違えにより硬くなりやすい首の後ろや横に付く筋肉の緊張を緩めるマッサージです。
※痛みの無い範囲で行ってみましょう。
首の後ろのマッサージ
- 両手の中指と薬指を後頭部の髪の生え際にある窪み(硬い骨のすぐ下の柔らかくなっている部分)に当てる
- 両手は固定しゆっくりと上を見上げ、首の後ろ側を緩める
- そこから首を小刻みに左右に振り優しくマッサージ
首の横のマッサージ
- 肩の力を抜き、顔を右に向ける
- 左の耳下〜鎖骨の付け根に向かって浮かび上がる筋肉を右手の指2〜3本でゆっくりと小さな円を描くように優しくマッサージする
- 反対も同様に行う
※首の横には太い血管や神経が通っているので、圧迫しない程度に優しく行いましょう。
寝違えて腕や手がしびれるのを予防する方法

寝違えによる痛みやしびれは、寝ている時だけでなく起きている時間の首の疲れや負担が原因となっている場合も少なくありません。
つらい痛みやしびれを予防するためには、
- 日頃のケアをしっかりする
- 日頃の姿勢に気をつける
この2つがとても大切です。
日頃のケアをしっかりする
とくに、パソコン作業やスマホ操作、デスクワークなど首を酷使する習慣がある人などは、日頃からストレッチやマッサージを行い疲れを溜めないようにすることが大切です。
今回紹介したストレッチやマッサージは、起床後や作業の合間、お風呂に入っている時間など隙間時間で行えるものがほとんどです。
ぜひ、生活の中に取り入れて日頃からしっかりとケアしていきましょう。
日頃の姿勢に気を付ける
猫背などの普段の姿勢の悪さは、首の負担につながってしまいます。
また、パソコン作業やスマホの操作、テレビ画面に夢中になっているときなどは、自然と猫背になりやすく頭が前に突き出た様な姿勢を取ってしまいがちです。
この様な不良姿勢を長時間続けることは、約6〜8kgもある頭を支える首には大きな負担となり寝違えを起こしやすい状態となってしまいます。
普段から背筋を伸ばし、横から見た時に耳と肩が一直線上にくるように意識し、姿勢を正すことを習慣付けるようにしましょう。
パソコン画面などは、なるべく目線の高さに調整し、時間を決めて休憩を挟みながら行うなどの工夫をし、首の筋肉が硬くなりにくいように気を付けていきましょう。
まとめ
寝違えによる首の痛みは頻繁に見られますが、腕や手にしびれが生じる場合は他の病気との判別が必要です。
似た様な症状が起こる病気をある程度把握し、数日経っても症状が改善しない場合は早めに受診しましょう。
普段から、寝違えを起こさない為にも、ストレッチやマッサージを行ったり姿勢に気をつけることでつらい痛みやしびれを予防していきましょう。