シンスプリントは、別名で脛骨過労性骨膜炎と呼ばれる骨膜の炎症が原因で生じるスポーツ障害の一つです。
シーズン始めのスポーツ選手や、部活動でスポーツを始めたばかりの中高生に多くみられ、運動直後にすねの下1/3のあたりにうずくような痛みを生じます。
運動の後に痛みを生じると、真っ先に氷嚢などを用いて行う冷却(アイシング)で対処しなきゃと考える人が多いのではないでしょうか?
しかし、良かれと思って冷やした結果、逆効果となり痛みを悪化させてしまうケースもあるので要注意です。
本記事ではシンスプリントの痛みに対して、症状を見極めながら行う正しい対処法や効果的なアイシングの方法などを詳しく解説していきます。
痛いからといってただ闇雲に冷やしてしまう前に、本当に冷やすのが効果的かどうか考えながら読み進めていきましょう。
シンスプリントの痛みの原因
シンスプリントは過労性のスポーツ障害として知られており、大きくいうと運動のやり過ぎで起こります。
スポーツ外傷とスポーツ障害
スポーツ活動中、身体に急激な大きな力が加わっておこる不慮のケガを「スポーツ外傷」と言います。
一方、スポーツ動作の繰り返しによって身体の特定部位(骨、筋肉、靱帯)が酷使されることによっておこるものを「スポーツ障害」と言います。
「スポーツ障害」は別名、「使い過ぎ症候群」とも呼ばれます。■参照元:公益社団法人 日本整形外科学会
ランニングやその他のスポーツをやり過ぎることで、脛の骨(脛骨)に付着する骨膜の付着部に負担が掛かり炎症を起こしてしまいます。
その結果運動直後に脛の内側で下方3分の1あたりにうずくような痛みを生じます。
特に、激しい運動や固い地面での運動、急な発進・ブレーキを必要とするスポーツ(バスケットボールやサッカーなど)を行うことによって生じることが多くみられます。
軽症の場合は少し安静にすることで、治ってしまうことが多いですが、重症化してしまうと完治するのに何ヶ月も掛かってしまうこともあります。
そのため、早めの段階で適切な対処をとることが、とても重要となります。
シンスプリントは冷やしていいのか
スポーツの現場では怪我の応急処置としてRICE処置がまず行われます。
RICE処置
外傷を受けたときなどの緊急処置は、患部の出血や腫脹、疼痛を防ぐことを目的に患肢や患部を安静(Rest)にし、氷で冷却(Icing)し、弾性包帯やテーピングで圧迫(Compression)し、患肢を挙上すること(Elevation)が基本です。
RICEはこれらの頭文字をとったものであり、スポーツを始め、外傷の緊急処置の基本です。RICE処置は、捻挫や肉離れなどの四肢の「ケガ」に行います。RICE処置に必要な機材■参照元:公益社団法人 日本整形外科学会
このよく用いられているRICE処置の一つにアイシングが入っていることからも、運動の後に痛みを生じると冷やしたくなるのが一般的です。
しかし、痛みの原因がシンスプリントである場合、
- 冷やした方がいいケース
- 温めたほうがいいケース
の2つのパターンがあるんです。
温めるのか、冷やすのかの判断を誤ってしまうと、その効果が半減したり逆効果となってしまう恐れがあります。
全く逆の対処法となるこの2つのケースについて、その原因やメカニズムを踏まえて理解していきましょう。
冷やした方がいいケース
アイシングの目的としては、炎症を抑えて痛みを軽減させることにあります。
そのため、冷やした方がいいケースというのは怪我の直後などの炎症が起きている状態です。
シンスプリントでは、腫れや痛みが強い時や、触るだけでも痛みが出る時が適応となります。
冷やすことによって一時的に血液循環やその周辺組織の代謝を低下させることで、痛みを感じにくくしたり、炎症を抑える効果が得られます。
スポーツ現場でも、怪我をした選手へ応急処置としても行われておりその効果も裏付けられています。
痛みが強い場合や腫れが酷くなってきている場合は、以下で解説するアイシングの方法を参考に積極的なアイシングを行いましょう。
温めた方がいいケース
温めた方がいいケースというのは、主に筋肉が緊張して痛みが出ているケースです。
怪我の直後の痛みというよりは、重だるいような痛みや慢性的な痛みに対して効果があります。
誰もがお風呂に入って温まった後、痛かった部分が軽くなった経験や、マッサージやストレッチでじんわりと体を温めた後に体が楽になった経験があるかと思います。
このように、温めることによって血流を促し、ガチガチに緊張して硬くなっていた筋肉が解れて痛みが軽減していきます。
このような状態の時に、良かれと思って痛いところを冷やしてしまうと筋肉が緊張し硬くなることで痛みを助長してしまうことがあります。
後から詳しく解説していきますが、シンスプリントでは痛みや腫れが引いて炎症が治まったあとが適応となります。
炎症が治まって痛みや腫れが引いてきたら、以下で解説するマッサージやストレッチを参考に温めることで回復を促していきましょう。
シンスプリントに効果的なアイシングの方法
ここでは、具体的なアイシングの方法について解説していきます。
ただ闇雲に湿布や氷、スプレーでアイシングを行うだけでは十分な効果は得られません。
より効果的なアイシングの方法を行う上では、「何を用いて」「どこを」「いつ」「どれくらい」行うか、ポイントを抑えていくことが重要です。
以下で解説している手順に沿って、効果的にアイシングを行い早期回復を図りましょう。
用意するもの
ここでは一般的に運動後に行う2つの方法をご紹介します。
氷でアイスパックを作る方法
以下の3つを用意して自分でアイスパックを作る方法です。
自宅にあるもので出来るので手軽な上、患部に直接当てることが出来るので細かな部位にしっかりとフィットさせることができます。
また、軽いアイスパックは応急処置などでも患部を挙上(高く上げること)しながら行えるので、効果的に炎症を沈めることができます。
- ビニール袋か、あれば氷嚢
- 氷
- タオル
ビニール袋に氷を入れてしっかりと空気を抜いて作ります。
ここで一点注意したいのが氷の温度です。
一般的に0℃以下のものだと凍傷を起こしてしまう危険性があると言われていますが、一般家庭の冷凍庫にある氷は−15℃程度となっていることが多いんです。
その場合は少し室内に置いてから行うなど温度を調整してから行いましょう。
すぐ行いたい場合は、患部に濡れたタオルなどを当てて行うことも凍傷のリスクを下げてくれます。
スラッシュバケット、アイスバス(氷水)を使った方法
特に運動後に足全体を冷やしたい時にはこの方法が効果的です。
冷やしたい部位やサイズに合わせて、用意するものが異なります。
- 氷水
- バケツ、浴槽、クーラーボックスなどの容器
痛みや腫れが生じている部分がしっかり入る程度のバケツなどに、氷水を入れて全体を冷やす方法です。
挙上は行えないので、応急処置としてではなく運動後のアイシングとして利用されることが多い方法です。
患部を冷やす
アイスパックでアイシングを行う場合は、冷やしたい部分にしっかりとフィットするように当てて患部を冷やします。
スラッシュバケットやアイスバスの場合は、冷やしたい患部全体が覆われるように氷水の中に足を入れます。
どちらも、冷やす時間は一般的に15分〜20分程度を目安に行い、感覚が軽く麻痺し痛みが軽減したら終わりにします。
感覚には個人差があるので、状態を確認しながら凍傷にならない程度に行うことが大切です。
30分以上行うと凍傷になる危険性が高まるので注意しましょう。
アイシングの頻度
アイシングを行う頻度については、炎症が治るまでの間は継続して行うと効果的です。
特に痛みや腫れなどの炎症症状が強い場合は、1〜2時間に1回の頻度でアイシングを行うと深部までしっかりと冷やすことが出来るので効果的であると言われています。
ストレッチの後にやる
アイシングを行うタイミングについては、ストレッチなどの運動の後に行うことが重要です。
炎症の強い時期を除いて、ストレッチは怪我の回復や予防に最も重要です。
ストレッチによって、じんわりと引き伸ばされた筋肉の血流が良くなり、体はゆっくりと温まっていきます。
しかし、アイシングによってせっかく患部を冷やしたにも関わらず、その後すぐにストレッチを行なってしまうと血流が促進され炎症を助長してしまう危険性があります。
アイシングは、ストレッチなどの運動が終わった後のタイミングでしっかりと行なっていきましょう。
アイシングから温熱に切り替える目安
痛みや腫れなどの炎症症状が強い時期はアイシングが効果的ですが、炎症が治まってからも冷やし続けてしまうと、返って筋肉が硬くなり治りが悪くなる危険性があります。
アイシングでは一時的に血流を抑え炎症症状を改善させる効果がありますが、そのまま続けてしまうことで、血流が悪くなり組織の回復が遅れてしまいます。
アイシングから温めて回復を促す温熱に切り替える目安をしっかりと理解しておくことが重要です。
その切り替えの目安は、一般的に炎症症状が治まったらと言われていますが具体的に示すと以下になります。
- 患部の熱感やほてりがなくなる
- 腫れ(腫脹)が引く
- 赤み(発赤)が引く
- 患部がうっ血・充血し始めている
- アイシングでも痛みが変わらない
このような症状が見られたら、そろそろアイシングから温熱に切り替える時期だと判断しましょう。
冷やす以外に効果的なシンスプリントの治療
炎症症状が落ち着いてきたら、アイシング以外にも以下の4つの方法で回復を促します。
- ストレッチ
- マッサージ
- インソール
- テーピング
それぞれについて詳しく解説していきます。
ストレッチ
ストレッチによって筋肉の柔軟性を適切に保つこともまた、シンスプリントの治療の上では重要となります。
特に、痛みを生じる脛やふくらはぎの筋肉をしっかりとストレッチすることで痛みの軽減につながります。
以下で紹介する3つのストレッチを実践してみましょう。
ふくらはぎのストレッチ
ふくらはぎには蹴り出すときやジャンプをする際に必要となる筋肉が複数存在しています。
ここが硬くなってしまうと、骨膜が引っ張られてしまい炎症や痛みに繋がってしまいます。
日頃からしっかりとストレッチを行い、柔軟性を保つことが重要です。
- 両手を壁に付けて両足を前後に開く
- 後ろ足の踵は地面につけた状態で、前の膝を曲げていく
- 後ろ足のふくらはぎがしっかりと伸びていることを感じながら20〜30秒キープ
※左右それぞれ2セットずつ行う
脛の前側のストレッチ
足首の前側には、足首や足指を上に反らす筋肉が存在しており脛に繋がっています。
ここが硬くなってしまうと足首の動きが低下したり、シンスプリントに繋がる骨膜の炎症を引き起こしてしまいます。
先ほどのふくらはぎのストレッチを合わせて、継続して行うことでより効果的です。
- 両手を壁に付けて立ち、伸ばしたい方の爪先を地面につける
- そのまま足の甲を地面に押し当てるように20〜30秒ゆっくりとストレッチ
※左右それぞれ2セットずつ行う
マッサージ
ふくらはぎや脛、足裏の筋肉がこわばって硬くなってしまいシンスプリントに繋がっているケースでは、足のマッサージが効果的です。
しかし、ここで一つ注意が必要なのが、マッサージをする範囲やタイミングです。
痛みを生じている患部周辺は腫れや炎症が強く、熱を帯びていることから無闇にマッサージをしてしまうと逆効果となってしまうケースがあります。
また、マッサージによって患部周辺の血流が促進された結果、炎症反応を助長してしまうケースもあります。
少し触るだけでも痛みが生じるような重症な場合は、無闇に触らないように注意が必要です。
上記以外の軽症の場合や、安静によって痛みが軽減してきた際に効果的なセルフマッサージを2つ紹介します。
脛の内側のマッサージ
脛の内側には蹴り出す際やジャンプの際に働く複数の筋肉が存在しています。
この筋肉が硬くなり柔軟性を失ってしまうことや、複数の筋肉が癒着してしまうと、シンスプリントに繋がってしまいます。
これらの筋肉の強張りをほぐし、疲れを取り除くことは痛みの軽減にもつながります。
運動の前後や、入浴の後など1日の中で時間を見つけ、脛の内側に指を押し当てた状態でゆっくりと筋肉を揉みほぐしていきましょう。
足裏のマッサージ
足裏にはアーチを形成する筋肉が多数存在します。
これらの筋肉の硬さや強張りをほぐし、適切な柔軟性を保つことは足の衝撃吸収機能を働かせるためにも重要です。
足の裏に指を押し当て、外側・内側それぞれのアーチに沿って揉み解します。
足裏のマッサージは指先で行う他にも、ゴルフボールを転がすことでも効果的に行えます。
日頃から、継続してこまめにストレッチを行うことが大切となってきます。
インソール
扁平足や変形など、足の構造自体に問題があり、シンスプリントの痛みが出てしまっている人にはインソールによる対処も効果的です。
上記のような変形が見られている場合、多くが着地の際の衝撃吸収が上手くいかずに骨膜へのストレスにつながってしまいます。
この衝撃吸収を助ける役割として、インソールを活用します。
例えば扁平足の人は、足裏への衝撃を和らげる為に、足のアーチ(土踏まず)を高くするようなインソールを入れます。
このように、それぞれの足の形に合ったインソールを利用していきます。
ただし、インソールは症状が改善したあとの再発予防(フォームの修正など)には有効ですが、インソールだけで完治させることは難しい場合が多いです。
その為、まずは専門の医療機関に相談してみると早期回復へつながります。
テーピング
痛みがなかなか改善しない場合の応急処置としては、テーピングを行うことも有効です。
テーピングによって正しい関節の動きを誘導したり、適度に圧迫を加えることは痛みの軽減にも効果的であると言われています。
ただし、注意したいのがインソールと同様に、テーピングのみでは根本的な治療とはならないということです。
痛みの原因をしっかり探りその原因に対する治療を行う中で、あくまで補助的な役割としてテーピングを利用するようにしましょう。
まとめ
今回は、シンスプリントの痛みに対するアイシングについて詳しく解説してきました。
同じ痛みでも、冷やした方がいいケースと温めた方がいいケースの2つのパターンがありました。
何かと痛みを感じるとアイシングをしてしまいがちですが、炎症を抑えるために冷やすのか、組織の回復の為に温めるのかの判断をしっかりと見極めることが早期回復の鍵を握っています。
ご自身の痛みの状況や炎症の状態を見ながら正しい対処ができるようにしましょう。